広島大学 大学院先端物質科学研究科 角屋豊研究室

 本研究室は、“テラヘルツ(THz)電磁波発生・検出、制御技術の開発”を進めている。主要設備として、分子線エピタキシー結晶育成装置、デバイス作製用各種装置、モードロックチタンサファイアレーザ等を有している。このように、半導体薄膜の育成からデバイス作製、そして光学測定までを一貫して行っているのが最大の特徴である。THz電磁波は麻薬、可 燃性液体等の指紋スペクトルの測定に有効であるため、セキュリティーチェック、品質管理への応用が期待されている。現在良く用いられているシステムは、自由空間でTHz電磁波を発生・検出するものである。
 一方、THz電磁波は光波と電波の狭間に位置するため、導波路技術という電波の側面を利用したセンシングも可能である。この場合、固体伝送線路による極めてコンパクトな高機能センサーになることが期待できる。この観点から、薄膜マイクロストリップ線路を用いた、THz分光センサーを開発したので紹介する。実際に開発した素子の構造と実物写真を図1に示す。低温成長GaAs薄膜で発生させたTHz電気パルスは、ポリマー薄膜を誘電体層としたマイクロストリップ線路を伝搬する。電気パルスは線路上に設けられた試料領域(~1mm)の影響を受け、検出領域に到達する。このセンサーで水、牛血製アルブミン/水、L-アルギニン/水を測定した結果を図2,3に示す。試料を載せることで信号強度が弱まり、時間遅延も生じていることがわかる。水の吸収係数は自由空間で測定した値の1/4程度である。水に牛血製アルブミン、L-アルギニンを溶解したとき、吸収係数が水だけのものよりも小さくなっている。帯域は1THz程度である。将来、光ファイバーアクセスによるTHz電気信号の発生と検出が可能になれば、リモートセンサーヘッドへの応用が期待できる。
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図1 開発したTHz分光センサーの素子図と写真


図2電気パルス信号

図3 吸収係数