東北大学大学院農学研究科 テラヘルツ生物工学寄附講座

 テラヘルツ生物工学寄附講座は、株式会社ミツカンと竹本油脂株式会社からの寄付により2004年4月、東北大学農学研究科に設立された講座である。当研究室では、食品や農に関連する分析やライフサイエンス研究に役立てるためのテラヘルツ波応用開拓を目的とした研究を展開している。名古屋大学や信州大学、理化学研究所、情報通信研究機構といった外部機関や、学内の食肉、食品、酪農製品、有機合成など多岐にわたる研究室の協力を得て研究を行い、テラヘルツ研究の中でも比較的出口に近い部分に携わっている。

 一般に生体高分子の相互作用に関する研究は、小分子とタンパク質、タンパク質とタンパク質などの特異的な結合を検出・解析し、生命現象の解明や病気診断、食品分析、創薬利用など様々な場面で利用されている。特に非標識によるこれらのセンシング法は、標識化のための処理に要する試薬や労力などを削減できることや、標識化が困難な対象も分析が可能となることから、有望な分析ツールになることが期待されている。そこで当研究室では、テラヘルツ帯の波長と同程度の大きさの周期構造で構成される金属メッシュを用いた高感度センシング法を用い、タンパク質の検出や、生体高分子相互作用解析ツールへの利用を試みている。現在、金属メッシュ上の酵素タンパク質500pg/mm2の検出に成功し、さらにメンブレンフィルターを組み合わせ、生体高分子の結合の有無を非標識で検出することにも成功している。当研究室では、このような技術を食品中のアレルゲンの迅速な検査や、病気の予測診断などへ応用を目指している。一方、新たな食品分析への応用を目指し、特に600〜20cm-1までの分光情報を利用したアミノ酸やビタミンなどの食品成分や農薬成分などの分析、液体試料の分析法の開拓、さらにはタンパク質ミセルや脂肪球などの構造解析まで様々な応用可能性を探査している。例えば、チーズは数十μmものタンパク質の集まりで構成されており、そのミセルの構造はチーズの熟成具合や種類などによって異なる。もし、テラヘルツ分光法がこれらの情報を反映しているとすると、チーズの熟成モニタリングや生産地の特定などに利用できるだけでなく、タンパク質の高次構造解析といったライフサイエンス分野に役立つ研究に展開できることも期待される。    文責 小川 雄一