リアルタイムテラヘルツイメージング装置の開発

株式会社栃木ニコン 深澤 亮一 

近年、テラヘルツ光の応用研究が世界的に盛んに行われています。最近もっとも活発な研究開発が行われているのがイメージングです。栃木ニコンでは、2000年から(独立行政法人)通信総合研究所の協力を得て産業応用を目指したリアルタイムテラヘルツイメージング装置の開発を行ってきました1)。この装置の特徴は、CCDカメラを用いて1枚の画像を短時間で取得できる点にあります。栃木ニコンの開発したリアルタイムイメージング装置では、1秒間に最大30枚の画像を撮ることが可能です。

 テラヘルツ周波数領域には、物質の誘電分散、格子振動、分子の骨格振動、ねじれ振動、回転、重い元素の伸縮振動など、物質の重要な物性情報が存在しているため、材料分野、バイオテクノロジー分野、医用分野と多岐にわたる分野での画期的な応用が期待されています。






 米国レンセラー工科大学の研究グループはイメージングプレートとして電気光学結晶を用い、ポッケルス効果によるテラヘルツ電場検出法とCCDカメラを組み合わせてリアルタイムイメージングが可能となる2次元電気光学サンプリング法を提案しました。2)。この手法を用いると画像取得時間を大幅に減少させることができ、かつ、動きのある物体の画像を取得することが可能になります。図1にリアルタイムイメージング装置構成を示しました。フェムト秒レーザーから放射された光パルスはビームスプリッタにより、ポンプ光とプローブ光に分割されます。ポンプ光はビーム径を広げられた後、時間遅延を受け、テラヘルツ光源へと導かれます。テラヘルツ光源は、半絶縁性半導体基板にバイアス電圧を印加したものを使用します。テラヘルツ光源にフェムト秒光パルスを照射すると、光励起により半導体中にキャリア(電子と正孔)が生成されて瞬時電流が流れ、この電流の時間微分に比例したテラヘルツパルス光が発生します。光源で発生したテラヘルツパルス光は物体を照射し、その透過光は結像用レンズを通ってイメージングプレート(電気光学結晶)上に物体の像を結びます。一方、プローブ光はビームエキスパンダでビーム径を広げられ、さらに偏光子、ペリクルを経てテラヘルツ光と同一の光路上に導かれます。電気光学結晶上の像面の各点ではテラヘルツパルス光の電場強度に比例して屈折率の変化が起こり、複屈折を誘起します。直線偏光したプローブ光が電気光学結晶に入射すると、テラヘルツパルス光の電場によって誘起された複屈折のために位相変化が生じ、結晶を通過した後は偏光状態が変化して楕円偏光となります。プローブ光の偏光状態の変化をCCDカメラの前に検光子を挿入することにより光強度へと変換して画像化します。この検光子は、前述の偏光子と直交配置になっており、偏光が変化した成分のみがCCDカメラに到達するしくみとなっています。この手法を用いると本来テラヘルツ光に感度をもたないCCDカメラを用いてテラヘルツ帯の画像を可視化することが可能となります。

 

 

 図2は、食虫植物(ハエトリグサ)のテラヘルツ光による透過画像です。1枚の画像を取得するために要した時間は0.1 秒程です。これまでテラヘルツ光の周波数領域で動画を取得することは困難でした。

 また、本装置は、ポンプ・プローブ法の原理を用いているのでサブピコ秒の時間分解で画像を取得する時間分解イメージングが可能となります。図1中の可動鏡をステージ上で移動させることにより時間遅延を変化させながら繰り返し到来するテラヘルツパルス光の電場の強度分布をCCDカメラで撮影することができます。さらに、本装置においては、分光イメージングを行うことも可能です。分光イメージングモードを利用すると、単に物体の透過画像を取得するだけでなく、分光スペクトルに基づいて物体の化学組成の分布をとらえることが可能となります。

 

1) M. Usami, T. Iwamoto, R. Fukasawa, M. Tani, M. Watanabe and K. Sakai: Phys.Med. Biol. Vol.47, 3749 (2002)
2) Q. Wu, T. D. Hewitt, and X.-C. Zhang: Appl. Phys. Lett. Vol.69, 1026 (1996).